オーガストの『穢翼のユースティア』をプレイした感想
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紙芝居(意味深)を嗜むフォロワーに「初心者向けのおすすめの作品ってなんかないですか?」という超無茶振り質問をして、紹介していただいた オーガストから 2011 年に発売された『穢翼のユースティア』をプレイ しました🎮️ 一応タイトルと曲くらいはなんとなく認知はしていたものの、それ以上の情報は全くの初見。
ちょっと押しただけで宇宙までぶっ飛んでいきそうなくらいの軽い気持ちで質問をぶん投げたのですが、人それぞれ性癖も苦手なジャンルも違う中でおすすめの作品を絞るのは相当大変だったのではと思っています。
紹介する作品をひねり出していただいたフォロワーに感謝をしつつ、最後まで遊ばせていただいたのでゆるく感想など書いていこうと思います。プレイした感想なので、以下の内容は ネタバレを含むものであること や年齢制限のあるゲームなので 読んでも大丈夫かを自身の心に問いかける など、自己責任でお読みいただければ。
プレイする前に、タイトルにある「穢翼」というワードについて。なんか普通にパソコンで「あいよく」と入力したら変換されたので辞書とかにも載っている単語なのかな?と思いきや、検索エンジンの結果にはこのゲームの内容ばかり。一般的な言葉ではなく、造語っぽい。
漢字的には『「穢」れた「翼」』を意味するのだろうと想像が付きますが、物語を読み始めるとそれが意味するものが分かります。舞台となる世界には「羽化病」という伝染病が存在し、これは感染すると背中に羽が生えてやがて死に至るという恐ろしいもの。翼は羽化病の象徴的なものであり、病気に罹っている証で穢れたものとして扱われているのだなということが察せられます。
物語の舞台となるのは浮遊都市ノーヴァス・アイテル。浮遊都市というところからも分かる通り都市全体が空に浮かんでいて、ファンタジーらしさ全開な世界。その都市の中で「上層」と「下層」、そして浮遊都市なんていうワクワク心躍るファンタジーワードには似つかわしくない「牢獄」という 3 つの区域に分かれています。
かつて神への感謝の祈りを忘れた人々は、神の機嫌を損ね、世界は混沌の濁流に飲み込まれてしまいます。そんな中で敬虔な聖女が神に許しを請い、聖女と彼女の信者を許した神は都市を浮かばせて命を救いました。それが浮遊都市ノーヴァス・アイテルという都市。
元々は貴族が住む「上層」と、民衆が住む「下層」しかなかったのですが、10 数年前に 大崩落 という多くの人々が亡くなる悲劇が起き、その際の地盤沈下の影響で下層の一部にもう一段低い場所、断崖絶壁に囲まれ人の行き来が困難な「牢獄」が生まれたようです。最初、浮遊都市の下層ということは地中とかなのかな?と思ったのですが、空はあるようだし場面転換時に出てくる絵的にもそういう感じではないっぽい。
大崩落 直後の、十分な救助や物資がなく無秩序状態へと陥った牢獄で生まれたのが「 不蝕金鎖 」という組織で、荒っぽいやり方ではあったものの人々に規律を与え、縄と籠で下層と牢獄間で物資をやり取りする仕組みを作るなどして牢獄の復興に尽力。牢獄で大きな力を持つ組織となった 不蝕金鎖 のトップと仲が良い男、カイムがこの作品の主人公です。
伝染病だとか死だとか牢獄だとか、不穏なワードが無限に出てくる通り、この『穢翼のユースティア』は全体的に重たく暗い話。開始直後から残酷な描写が続き、命が失われるグロテスクな効果音が響きます。本当に初心者向けか?
主人公やヒロイン、その他の登場人物との会話や主人公以外の視点での描写を挟みながら物語の設定や世界観を描き、いよいよ各ヒロインとの物語へ。ゲームシステムとしては時折表示される選択肢を選びながら進める方式で、エピソードの後半に表示される分岐で現在関わっているヒロインと結ばれるか、他のヒロインのルートへ行くかを選びます。
なので、ストーリーとしては全て繋がっていて、他のヒロインとの交流していた話を踏まえたうえで展開していくことになります。他のルートをプレイするためには、そこまで交流して信頼関係を築いてきたヒロインに嫌われるなどしなければなりません。どこか悲しい気持ちになりつつも、話がおかしくならないように 1 つの物語の構成を考えるのめちゃくちゃ大変だっただろうな…と普通に感心します。すごい。
まず最初に読み進めるのは 「フィオネ・シルヴァリア」 のルート。先述の通りこの世界には羽化病という伝染病が存在し、これは背中に羽が生えてやがて死に至るという恐ろしいもの。そんな羽化病を発症した人々を保護し治癒院という施設へ送る「防疫局」という機関があり、特別被災地区(牢獄)で活動する部隊の隊長がこのルートのヒロイン。
羽化病罹患者の保護をしつつ、牢獄内で多くの命を奪う正体不明のバケモノ・黒羽の対処をするために 不蝕金鎖 と調査をすることになり、主人公と行動を共にすることに。真面目で融通が利かない性格ゆえに主人公とよく言い争いになりながらも、徐々にお互いのことを知っていき、選択によっては主人公と結ばれることになります。
真面目で、正しいことをしようと常に心がけ、自分の仕事に誇りを持って行動するフィオネ。そんなフィオネが何度も何度も信じていたものに裏切られ、憔悴していくさまは読んでいる私も胸が苦しくなりました。信頼していた部下には裏切られて、敵だと思っていたバケモノは自身の兄で、正しいと信じてやってきた防疫局の仕事は人体実験に加担しているだけだった。丁寧に描かれる物語の中で、丁寧にフィオネを追い込んでいくので、なんかもうやめてあげてって気持ちになりました。
私自身がかなり「ルールは絶対守らなきゃ!」と考えがちな人間なので、フィオネの言動に対して「そういう反応しちゃうよね…」みたいな共感が多かったです。ハッピーエンド…かどうかは分からないですが、主人公と結ばれた後はなんだか幸せそうで本当に良かった。日記の中で主人公への情熱的な想いを自作の詩に綴っていたのも良い。
黒羽の件が片付き、続いて読み進めるのは 「エリス・フローラリア」 のルート。エリスはこの作品を始めてから最初に話に出てくる女性の登場人物で、主人公との関わりの深い 不蝕金鎖 が経営する娼館街で医者をやっているのがこのルートのヒロイン。ここまでの物語でも主人公との何らかの関係性が見え隠れしていましたが、詳しく語られてこなかった部分が徐々に明らかになっていきます。
娼館に売られて娼婦になりかけたエリスを主人公が大金を払って身請けし、その後「自由に生きろ」と独り立ちして欲しいことを伝えるも、エリスは主人公の元を離れたがらず主人公に執着する様子を見せます。一向に自分の人生を歩もうとしないエリスをどうにかしようと主人公が行動を起こし…というのが話の始まりです。
エリスとの物語の流れは、前のフィオネのルートとは全くの逆な印象。全くの初対面から徐々に信頼関係が構築されていったフィオネとは異なり、最初からある程度の関係性があったところから話が拗れに拗れて主人公とエリスの会話がぎこちなくなっていって…という感じ。
更には 不蝕金鎖 と対立関係にある 風錆 との争い、組織内での裏切りといった話の流れもあって、街の様子も組織内の雰囲気も悪くなるばかり。全てがうまく進まず主人公がどんどん荒れ、状況が悪くなっていく様子を読み進めるのはなかなかしんどかったです。物語の大半が主人公視点で語られるため、主人公側に感情移入して読んでいる側も「なんで分かってくれないんだ」と不快な気持ちになるところも多かったです。
主人公視点でどんどんおかしくなって話が通じなくなるエリス。選択肢が出た時に「エリスを選ばない」という選択をするのが怖すぎると感じました。選ばなかったら一体何をされるのか、エリスがさらにおかしくなってどうなるのかを見るのが怖すぎる。
そんな「エリスを選ばない」という勇気ある決断をして 風錆 との話が落ち着いたところで、次に読み進めるのは 聖女様とその世話係「ラヴィリア」 のルート。ここからはいよいよ、この世界を取り巻く謎の真相に迫っていきます。長らく続いた 不蝕金鎖 と 風錆 の争いも一段落ついたところで、主人公が訳あって保護している「ユースティア・アストレア(ティア)」の元に謎の手紙が届くところから話は始まります。
手紙を持ってきたのは聖職者らしき女性で、手紙の差出人はこの物語の舞台である浮遊都市ノーヴァス・アイテルを浮かせているという第 29 第聖女イレーヌ。この世界は神が天使を遣わせて作ったとされているのですが、手紙によるとその天使の御子がこの都市に存在し、それがティアなのだといいます。
物語序盤の、黒羽が起こした凄惨な事件。その現場を見に行った主人公は唯一生き残っていたティアを見つけるのですが、その時にティアの身体が 大崩落 の際に空を覆った 終わりの夕焼け という光と同じ色で輝くのを目にします。何か 大崩落 と関係があるのかもしれないと思った主人公が引き取った後も、光とともに蘇生するという人間としてはありえない出来事も起こっており、光の正体やティアの力について知りたいと考える主人公はティアを連れて大聖堂のある上層へと移動することになります。
読み始めてから初めて登場する上層、そこで出会うのは手紙の差出人である聖女様。主人公とティアは、なんやかんやあって聖女様の居る大聖堂の聖殿に逗留することになります。ここまでの物語はほとんどずっと、生きていくだけでも困難な牢獄を舞台に進んできたので、上層に住み敬われる立場の聖女様と主人公の会話では読み手側も「信仰心だけでは生きていけないよ」「人それぞれ事情があるのに」と少し苛つきを感じました。
それでもチェスをしながらの主人公と聖女様の会話が繰り返されるにつれて、主人公も私も聖女様や世話係のラヴィリア、そして周囲の聖職者たちのことを徐々に理解していきます。その中で主人公は「聖女が都市を浮かせているわけではない」「都市に何か異変があった時、全ての罪や住民の怒りなどを一身に背負って大地に落とされるために存在している」という真実を知ることになるのです。
このルートは、ひとりの人間にはどうすることもできない、世界の不条理さや理不尽さを強く感じさせるものでした。フィオネとの物語も、エリスとの物語も、あくまで人同士でのトラブルや争いによって起きた事件が話のメインという印象だったのですが、今回は理由も分からず空に浮かんでいる都市とその崩落という人の身ではどうすることもできない事象が根本にあります。
話を読むまでは 大崩落 によって傷ついた人々が聖女様に対して怒りの感情を持つのは当然…とまではいかないまでも、仕方ないだろうなとなんとなく軽く読み進めていましたが、崩落が再び牢獄を襲い人々が聖女様に責任を取らせようとする姿を見たときは、なんとも言えない気持ちになりました。どうすることもできないよ…。
誰のせいにもできない理不尽さの中でも自分の信仰という道を違えない姿はとてもかっこよく見えました。重責から開放された元聖女のコレットとラヴィリアが、主人公と幸せそうな日常を過ごすことができている様子を見ることができて、なんだかホッとしました。暗い話が続いたあとの幸せな場面は心に染みるね…。
浮遊都市を浮かせているのは聖女ではない――では何故この都市は浮いているのか。何故 10 数年前に 大崩落 が、今牢獄の半分が崩落したのか。真実を知るため牢獄を出た主人公の物語は 「リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ」 のルートへと向かいます。
これまでの話で度々登場していた貴族・ルキウス卿の元を訪れた主人公は、ルキウス卿の依頼を受けて彼の部下となり、王城で聞き込みや調査を行うことになります。
依頼の報酬の前金として教えられた情報によると、実質的にこの国を支配している執政公・ギルバルト卿という人物が、この都市を浮かせている力を調べるために研究を続けているようですが、それを誰にも明かそうとせず謎を追求しようとしたものは排除されているとのこと。また、10 数年前に起きた 大崩落 は人為的なものである可能性が高く、執政公はこれに何らかの形で関係している模様。
日常の政務があり、周囲に顔も知られているルキウス卿とその副官・システィナの代わりに、自由に動ける駒となって城内で行動する主人公。その中で、このルートのヒロインであるリシア王女と出会います。
このルートでの物語は、黒羽の事件に 不蝕金鎖 と 風錆 の争いの原因となったクスリ、そして浮遊都市が浮いていることへの謎と、これまで主人公の前に立ちはだかった問題の黒幕である執政公との戦い。舞台が王城であったり、近衛騎士団や防疫局の人々が剣を持って集団で戦ったりと、牢獄での戦いに比べると派手で熱い展開が多くて個人的には好みではありました。やはりファンタジーな世界での物語はこうでなくちゃという感じ。
病床の国王陛下に代わって国政を見ていることにはなっているものの、人を疑うことを知らず執政公の発言に頷くだけのほとんど操り人形のような状態のリシア王女。それが自分の目と耳で多くを見聞きし、人の言うことを疑い、自分で考えた上で国民の命を背負う覚悟を決めて王の道を進むと決断しました。そこに至るまでの過程が丁寧に描写されていたのも良かったです。王女と近衛騎士団長が対峙する場面が一番熱かった。
ここまで話を読み進める中で、ヒロインを選ぶか選ばないかの選択をいくつも通ってきましたが、リシアのルートが一番「選ばない」という選択をするのが心苦しいものでした。選んだ場合は主人公は国王の夫としてリシアを支えていくことになるわけですし、幸せそうなヒロインを見ることができたのは良かったのですが、物語はここで終わりではありません。
たったひとりの血の繋がった家族だと思っていた国王は他人で、近くに居るのはただリシアの言葉に従うだけの召使いと権力を利用しようとするだけの貴族。リシアを選ばないという選択は、自身を愛してくれる、信じられる人間が欲しいというリシアの願いを唯一叶えられる主人公がそうしないということに他ならないわけで。選択肢が出てきたときには頭を抱えました。
そして最後は 「ユースティア・アストレア」 のルート。いよいよ全ての謎が明かされる、最後の物語です。執政公を追い詰めた主人公たちは、都市の最も高い場所にそびえる塔へと辿り着きます。そこで、執政公・ギルバルトの口から真実が語られます。
浮遊都市を浮かせているのは、かつて人間に愛想を尽かして神の下へと去っていったはずの天使であり、人々は天使を拘束してその力を引き出すことで都市を浮かせ、井戸から水を湧き出させ、食料が豊富に採れるようにしていたのです。
大崩落 についてもギルバルト卿の口から語られます。天使の力が残り僅かだと知ったギルバルトとルキウス卿の父であり当時の執政公であったネヴィル卿は、都市を存続させるために新たな天使を作り出す研究を始めたのですが、理論的な部分が完成したところで人体実験を行うことが必要になります。被験者として選ばれたのはギルバルトが愛していた女性で、ネヴィル卿はギルバルトの留守を狙って実験を強行。さらに実験は失敗し、女性は命を落としてしまいます。ネヴィル卿を失脚させ、長い研究の末に蘇生を試みるも、失敗。抽出した天使の力を制御することができず、暴走した力は空を染め、その直後 大崩落 が発生したのでした。
執政公との戦いが終わった後、徐々に高度を落としていく浮遊都市。墜落を防ぐため、主人公は行動していくのですが…というのがこのルートの流れです。
兎にも角にも、このルートは終始読み進めるのが大変でした。悲しいとか苦しいとか、そういう感情になるのを避けて無限に小説投稿サイトで気楽に読める作品を読み散らかしてきた弊害というかなんというか。過去に選ばなかったヒロインたちが自分の意志で選択をし悔いのないように行動している中で、なかなか行動しようとしない主人公にうまく言葉にできない苛立ちやモヤモヤとしたものがありましたし、過去に交流のあった人たちと敵対したり、裏切るようなことになったり、失望されたりというのが、もうなんというか…という感じ。
あと、「いよいよ決着か…」と思った場面から何度も何度も「まさか!」の展開でひっくり返され、読んでいる側も感情がキモいことになりました。どうしてくれるんだ。
全体的に心休まらない緊張する場面が連続するものの、ところどころに少し気が抜けたような、フッと笑えるような場面があり、前半は苦しくなりすぎずに読み切ることができました。個人的に剣とか魔法とかが出てくるようなファンタジーな空想世界の物語が好きなので、そういった意味でも読みやすかったなと感じました。
個人的に、悲しい気持ちや苦しい気持ちになるような作品はかなり避けがちでした。なんで自分の人生のことを考えるだけで難しくて大変なのに、自分のしたいことを選べる自由時間にまで苦しまねばならないのだと。基本的にはハッピーエンドの作品ばかり読むようにしていたので、後半は正直読み進めるのが大変で、声優の方が一生懸命吹き込んだであろう声を聞いている余裕がありませんでした。
とはいえ、前半を読み進めた中で出てきた謎や真実が気になったこと、そして何よりこの物語の結末を見届けねばならんという気持ちで、なんとか無事最後まで完走できてひと安心。
プレイ時間はトータルで 30 時間ほど。結構ハイスピードで読み進めた感じがしたのですが、それでもこれだけの時間がかかったので、普段からたくさんの作品をプレイされている方は本当にすごい…。あと考察やらなんやら書いている人は尊敬。思ったことを雑な文章にするので精一杯でした。たくさんの作品に触れて色々考え続けたらできるようになるんですかね?
そんな私個人の趣味趣向やら上手い文章が書けないことへの色々はともかく、この作品がどこか心揺さぶられるものであったことには変わりなく、素晴らしい物語を読むことができて本当に良かったです。この作品に携わった全ての方々と、超無茶振りからこの作品を紹介してくれたフォロワーに感謝を。以上です。